巣内尚子写真展『彼女を探して』
―現代ベトナムと女性移住家事労働者―
2017年7月17-23日 フォトギャラリー<PlaceM>
巣内尚子写真展『彼女を探して』
―現代ベトナムと女性移住家事労働者―
2017年7月17-23日 フォトギャラリー<PlaceM>
© Naoko Sunai
© Naoko Sunai
© Naoko Sunai
© Naoko Sunai
Introduction
「海外に行けば、家族を助けられると思いました」
―「移住家事労働者」として働く女性たち―
海外に行けば、家族を助けられると思いました――。
私のインタビューに、海外で「家事労働者」として働いた経験を持つベトナム人女性たちはこう話した。
家事労働者は、家庭内で炊事、洗濯、掃除、育児、介護などの「家事労働」を担う労働者で、多数の女性たちが家事労働者として働いている。また、世界的に国境を超える人の移動が拡大する中、家事労働者として海外へ出稼ぎに行く人たちもいる。
日本では国家戦略特別区域内での「家事支援外国人」の受け入れが注目を集めている。日本で、政策的に海外から家事労働者を受け入れる動きがあるのだ。
◆搾取とエンパワーメント
しかし、家事労働者をめぐって、より注視する必要があるのは、かねてより家事労働者の就労状況には課題が多く、長時間労働や休みのない労働状況に置かれる家事労働者がいることが指摘されてきたことだろう。家事労働者が、搾取の対象になったり、ひどいケースでは雇用主により虐待されたりするといったような事件もかねてより伝えられてきた。
この半面、家事労働者は、人間が生きていくのに欠かすことのできない重要な仕事である家事労働の担い手だ。さらに家事労働は決して簡単な仕事ではなく、この仕事をきちんと遂行するためにはスキルや経験、ノウハウが必要になる。
同時に、家事労働に携わる女性たちにとって、家事労働者として就労することは現金収入を得るための機会をもたらす。
その意味で、家事労働者は、搾取にさらされやすい一方で、人間が生きていくのに欠かせない重要な仕事を担い、かつ家事労働により経済的なエンパワーメントを果たす可能性を持つという、搾取とエンパワーメントの並存という矛盾した状況に直面する可能性のある労働者なのである。
◆成長と格差
では、経済成長著しい、現代のベトナムから、なぜ女性たちは国境を越えて出稼ぎの道に入ることを選んだのだろうか。
1975年のサイゴン陥落により長きにわたるベトナム戦争は終結したが、国土は大きな打撃を受けた。その後も中越戦争といった戦火に見舞われたベトナムだったが、1986年に市場経済の導入と外資への門戸開放を柱とする「ドイモイ(刷新)」政策を採択した。これを契機に、ベトナムに多数の外資系企業が投資を行うなどし、同国は経済成長路線へと舵を切っていった。
だが、経済成長時代を迎えながらも、ベトナムには貧困問題が残るうえ、先に豊かになった人々とそうではない人々との間の経済格差が広がっている。
◆広がる出稼ぎ、農村女性が海外へ
一方、こうした時代の流れがある中で、ベトナムでは自国民を国外に送り出す「労働力輸出」政策が取られていく。同時に、労働者を海外へと送り出す”出稼ぎビジネス”が拡大している。そんな中、戦中や戦後のベトナムの変動期に農村で生まれた女性たちが多数、海外へ「家事労働者」として出稼ぎに行くようになった。
私が話を聞いたベトナム人女性たちは故郷の農村を出てから国境をわたり海外へ出て、言葉も文化も社会状況も大きく異なる外国で、家族と離れ、単身で働いていた。そして、家事労働者の就労実態は長時間労働や低賃金などが常態化し、決して生易しいものではない。
この半面では、学歴や職歴に恵まれなかった農村の女性たちにとって、出身地では得ることのできない現金収入を得ることのできる海外での家事労働者としての出稼ぎ労働は貴重な就労機会となっている。
◆ベトナムの<いま>と家事労働者
私はここ10年ほどの間に、フランス、フィリピン、インドネシア、ベトナムで暮らす機会を得た。この経験の中で、移民や出稼ぎ労働者に関心を持ち始め、その後、ベトナムから農村の女性たちが海外へ家事労働者として渡る人がいることを知ることになる。そして、2014年から移住家事労働を経験した女性たちのインタビューを開始した。
今回の写真展では、インタビュー調査に先立ち、2011年ごろから撮りためた「ベトナムのいま」を写した写真とともに、移住家事労働を経験した女性たちの写真を示すことで、現代ベトナムから「希望」を抱き国境を超えて海外へ働きに出た経験を持つ女性たちについて、考えたいと思う。
(巣内尚子)
About
写真展『彼女を探して』―現代ベトナムと移住家事労働者―
国境を超えて”移住家事労働者”として働いた女性たちの思いと素顔、そしてベトナムの<いま>を見つめた写真展。
2017年7月17日~23日にフォトギャラリーPlaceM(12:00―19:00/東京都新宿区新宿1-2-11 近代ビル3F/03-3341-6107)で開催。入場無料。
<巣内尚子 Naoko Sunai>
ジャーナリスト。
東京学芸大学在学中に、三池炭鉱のドキュメンタリー映画のアシスタントを経験したほか、記録映画制作のため所沢高校問題を取材し、取材者としての活動を開始。
大学卒業後はフランスに滞在し「移民問題」を知る。その後、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。東南アジア各国からの国境を超える移住労働に関心を深める。
2015年3月~2016年2月にベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を研究。ベトナム人移住家事労働者やベトナム人技能実習生を対象にインタビュー調査を行う。2016年3月に、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。
<ホームページ>
http://nsunai33.wixsite.com/naokosunai-blog
<ツイッター>
<これまでのお仕事>
Yahoo!News
https://news.yahoo.co.jp/byline/sunainaoko/
JBpress
http://jbpress.ismedia.jp/search/author/%E5%B7%A3%E5%86%85%20%E5%B0%9A%E5%AD%90
このほか『週刊金曜日』『Webronza』などに寄稿。
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